Human(ヒト関節ケア)

関節痛の症状と影響

「関節に感じるさまざまな痛み」。それだけでも辛いですが、関節痛には「その先」があります。痛みによって活動量が低下すると、私たちの全身の健康もまた失われていきます。関節を守るということは、つまり、健康そのものを守るということなのです。

関節痛の症状と影響

関節痛の症状は、文字通り「痛み」です。
ただし、「痛み」の現れ方は、関節痛の原因になっている病気の種類やその進行度合いによって少し異なります。
また、関節痛は、痛みのある関節を動かしづらくするだけでなく、運動機能の加速度的な低下を引き起こし、全身の健康にも大きな影を落とします。そして、健康でいられる時間をどんどん奪っていくのです。
そうならないためには、関節痛の現れ方や関節痛によって生じるさまざまな影響を理解し、健康維持に活かしていきましょう。

関節痛にもいろいろな痛みの現れ方があります

関節痛というのは、「関節に痛みがある状態」の総称ですが、痛みにも程度があり、痛みが起こるタイミングもそれぞれ違います。まずは、関節痛の二大原因である、変形性膝関節症と関節リウマチを中心に「痛み」についてみていきたいと思います。

●変形性膝関節症
変形性膝関節症の痛みは、初期の段階では、「起床時の膝の違和感」という形で現れます。この違和感というのは、朝起きて第一歩を踏み出すときに感じる「なんとなく膝が変だ」という感覚なのですが、その正体は、ごくごく小さな痛みです。違和感がしばらく続くと、次に、立ち上がりや歩き始めなど、動作の開始時に「痛み」を感じるようになります。痛みの感じ方はさまざまですが、特徴としては、頻度が少なく、休めば痛みが治まります。
中期になると、動作の開始時の痛みが頻回になり、膝が完全に伸びきらない、曲がりきらない状態となります(可動域制限)。その影響で、階段の昇り降りやしゃがみ込みなどの動作が徐々に困難になっていきます。
さらに進行すると、動作の開始時だけでなく、日常的に痛みを感じるようになり、程度も強くなっていきます。そして最終的には、日常生活そのものが満足に送れないような状態になってしまうのです。

●関節リウマチ
初期の関節リウマチの場合、じっとしていればほとんど痛みを感じることはありません。腫れている部分を押したり、その関節を動かしたりしたときに違和感や小さい痛みを感じる程度です。
中期に入ると、徐々にじっとしていても痛むようになり、痛みの程度も少しずつ強くなります。この痛みは、通常、左右対称に出るケースが多く、痛みの種類としては、締め付けられるような、疼くような痛みです。
さらに進行すると、骨の破壊が進み、痛みは全身に広がっていきます。場合によっては、寝たきりや車椅子生活になることもあります。

●そのほかの関節痛
急激な運動により関節痛が起きる場合は、運動の直後もしくは炎症が出てくる時点の痛みが強く、炎症が治まるとともに、徐々に痛みも少なくなっていきます。
また、感染が原因の関節痛は、感染症を引き起こしているウイルスや細菌が死滅してしまえば、基本的に痛みはなくなります。
一方、加齢や肥満による一時的な関節炎(変形性関節症になる前)の場合は、関節への負担を減らすことで痛みは軽減します。ただし、原因が取り除かれたわけではないので、痛みを再発することも多々あります。

関節痛は、健康そのものにも大きな影響を与えます

関節痛は、私たちの体にさまざまな問題を引き起こします。それは、痛みのある関節の機能を損なうだけでなく、運動機能への悪循環を引き起こし、全身の健康状態にまで影響を及ぼすこともあるのです。

たとえば、膝関節に痛みがあり運動不足になると、全身の筋肉量が低下します。筋肉はそれ自体が運動機能を維持するための大切な器官であると同時に、外部の衝撃から私たちの体を守る役割があります。この筋肉の働きは関節にとっても重要で、足の筋肉が弱れば膝関節が、腹筋や背筋が弱くなれば股関節や腰の関節に大きな負担がかかるようになります。その結果、より一層関節の状態が悪くなるという悪循環を招いてしまうのです。

また、運動不足は、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の発症リスクを増加させ、脳卒中や心筋梗塞など命に関わる病気を引き起こすこともあります。さらに、外出が減り、人と関わる機会が少なくなると、気持ちが塞ぎ、精神的に落ち込みやすくなることもあるので、注意が必要です。

健康寿命の延伸のため、関節痛を予防しましょう

高齢化が進むなかで、今、日本では「健康寿命」に大きな注目が集まっています。健康寿命とは、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間のこと。厚生労働省の発表では、2016年時点で、平均寿命と健康寿命の間には、男性で約8.8年、女性では約12.4年の差があるとされています。

この健康寿命の延伸を目的に、近年、フレイルやロコモティブシンドローム(ロコモ)といった新しい概念が登場してきました。フレイルとは、「加齢により心身が老い衰えた状態」を指すもの。ロコモとは「運動器の障害により、立つ、歩くといった移動機能が低下した状態」を表すものです。どちらも、進行すると寝たきりなどの要介護状態につながるため、健康寿命の延伸には、これらをいかに予防し、改善するかという観点が大切になります。

フレイルやロコモを引き起こし、進行を早める要因の1つに「関節痛」があります。関節痛は、運動機能の低下はもとより、全身の健康状態を損なうきっかけになるもの。普段から関節痛の予防を心がけ、少しでも長く健康な生活を続けていきましょう。

【記事監修】昭和大学 藤が丘病院 整形外科・准教授 高木 博 先生